ぼくと世界とキミ
第二十六話 赤い靴

「……お疲れ様でした」

忙しそうな厨房に頭を下げ裏口から外に出ると、燃える様な夕日が町を赤く染めていた。

その《赤》は何故か僕には悲しく見える。

静かに迫る闇と共に、僕の心にも黒いカーテンが下りる様な……そんな不思議な感じ。

そんな事を考えながら今日の少ない給料を握り締めると、真っ直ぐに《いつもの場所》へと向かった。

大通りから一本裏に入った所にある、小さな靴屋。

ガラスのショーウィンドウには色取り取りの綺麗な靴が並べられている。

その中でも一際目立つ真っ赤な靴。

《予約済み》

僕には何て書いてあるのか読む事は出来なかったが、赤い靴に立て掛けられたその白い札を見て、微かに笑みを浮かべた。

ニヤッと顔を綻ばせたまま店の茶色の扉を開くと、扉についていた鈴がチリンと小さくなる。

すると店の奥に座って新聞を読んでいた白髪頭のおじいさんが、そっと僕を振り向いた。

「おおノヴァ……お疲れさん」

そう言っておじいさんは優しい笑みを浮かべる。

「はい、今日の分」

おじいさんにニッコリと笑みを返すと、手に握り締めたままの少ない給料からお金を渡した。

「もうすぐだな?よく頑張ったな」

おじいさんはそう言って僕の渡したお金をしっかり受け取ると、しみじみと呟いて僕の頭を撫でる。

僕はもう……一年近くこの店に通っていた。

それはもちろんあの《赤い靴》を買う為にだ。

「じゃあ、また明日!!」

そう言って小さく手を上げると、そのまま店を後にした。
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