ぼくと世界とキミ
当ても無く歩き続け……気付けば河原にいた。
まだ父が生きていた頃に、母と父と僕の三人でよく遊びに来た河原。
辺りはすっかり暗くなり辺りに人の気配は無く、空には美しい月が優しく光っている。
その月をぼんやりと見上げたまま、強く拳を握り締めた。
二年前……父が死んでから母は変わってしまった。
強く優しかった母の面影は今は無く、酒に溺れ泣き暮らす日々。
……それほどに父を愛していたという事か。
河原の草の生い茂る地面にそっと寝転ぶと、静かに目を閉じる。
すると深く暗い闇の中、懐かしい日々が鮮明に蘇った。
この河原で三人でお弁当を食べた事。
川に石を投げる遊びを父に教えてもらった事。
三人で泥だらけになりながら、幸せになれるという四葉のクローバーを探した事。
美しい服に身を包んだ母の真っ赤な靴。
……真っ赤な靴。
あの食堂で皿洗いの仕事を見つけてから見つけた赤い靴。
店主のおじいさんにお願いして、分割払いを頼んだ。
一年近くかけて払うだなんて、普通だったら絶対に受けてもらえない様なお願いだったが、あのおじいさんはその願いを受け入れてくれた。
……もうすぐ……手に入る。
去年の母の誕生日には何もできなかった。
今年はあの赤い靴をあげようと思っている。
そうすれば……あの頃の優しい母に戻るだろうか。
そんな儚い幻想を抱きつつ、優しい月の光に照らされながら眠りについた。