ぼくと世界とキミ
少し歩くと村の中央らしい広場に出た。
そこに足を踏み入れた瞬間、余りに異様な光景に……言葉を失った。
辺り一面の……十字架。
見渡す限り広場は十字架で埋め尽くされている。
数え切れないほどのその十字架は廃材で作られている様で、色も大きさもバラバラだった。
そしてそれぞれに、刃物で名前が刻まれている。
……この村の人達だろうか。
そんな事を思った瞬間、急に強い風が吹いた。
するとその風に乗り、どこからか甘い香りが漂ってくる。
辺りをよく見回すと、広場の丁度中央に立っている一人の青年に気が付いた。
その青年は赤いリボンの靡く十字架の前からピクリとも動かない。
……服はボロボロ、髪はボサボサ。
しかしその横顔は少し汚れていたが、格好に似合わないほど美しい顔立ちをしていた。
青年の蒼い瞳は、何も見えていないのではないかと思うほどに暗く濁っている。
ふと青年の手に視線を移すと、土と泥で汚れた手が……赤黒く染まっていた。
……彼がこの墓を作ったのだろうか。
「……っ!」
急に右肩の痣が酷く痛み肩を押さえたその瞬間、突然青年がこちらを振り向いた。
青年の暗く濁った蒼い瞳が、真っ直ぐに俺を見つめている。
その瞳は俺の胸をざわざわとざわめかせ、俺の心臓は壊れそうな程に鼓動を速める。
何を言ったらいいのか分らず、無意識に胸を押さえたまま立ち尽くしていると……青年が微かに笑った様な気がした。