ぼくと世界とキミ

薄れゆく意識の中……考えていた。

……人はなんと愚かで醜いのか。

……人はなんと優しく美しいのか。

……人はなんと弱く儚いのか。

矛盾した様々な考えが頭の中を廻った。

それと共に遠い家族の記憶や、母の涙、辛かった仕事場の事や焼ける様な夕焼け……それから靴屋の店主の優しい笑顔が浮かんだ。

しかしそれはすぐに男の激しい暴力により掻き消され、見えなくなる。

……この世界に神などいないのだろうか。

……いるのだとしたら、なぜ僕を救ってはくれないのだろうか。

気が付くと涙が流れていた。

口が切れ、流れ出た血の池に涙がポトポトと落ちる。

……僕は……何のために生まれてきたのだろうか。

「……かみ……さま」

そう擦れた声で呟き、全てを諦めてそっと瞳を閉じた、その瞬間……男の攻撃が止んだ。
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