ぼくと世界とキミ
そっと目を開けると、棒を振り上げたままの男の胸から……黒い剣が生えていた。
男はゴフッと口から鮮血を吐き、大きく目を見開いたままガクンと掲げていた腕を下した。
それからゆっくりと男の胸から剣が抜かれ男の体が地面に崩れ落ちると……その後ろの漆黒の瞳が僕を冷たく見つめていた。
……深い闇の様な髪と瞳の男。
その顔はまるで何の感情も持たない人形の様に無表情で、何も読めない。
男の手には血に濡れた大きな黒い剣が握られている。
「……たす……けて……くれた……の?」
擦れる声で問い掛けたその瞬間、男の手から大きな剣が姿を消した。
「目障りだったので殺しただけだ」
男はそう素っ気なく答えると、クルッと身を翻し歩いて行ってしまう。
「……待って!!」
ボロボロの体を何とか起こし男を呼び止めると、男は歩く足を止め静かに僕を振り返った。
その闇の様な瞳は真っ直ぐに僕を見つめ、それに見竦められる様にゴクリと息を呑む。
……人殺し。
だけど不思議と怖くはなかった。
ただ僕を惹きつける《何か》がこの男にはあった。
「……僕を……僕を連れて行って!!」
そう縋る様に叫ぶと、男は少しだけ眉を動かし……それから小さく首を傾げて見せる。
「私の進む道は血に濡れるだけの救われぬ道だ。それでも……共に来るか?」
男はそれだけ言うと、静かに僕の答えを待つ。
……血に濡れる道。
……それでも構わない。
男に答える様にコクンと頷いて見せると、ボロボロの体を無理やり動かしてフラフラと立ち上がる。
すると男は僕に向かって……手を差し伸べた。
傷だらけの震える手をそっと伸ばすと、男の大きな手を強く握り締める。
この男なら……こんなくだらない《世界》を変えてくれる。
そんな奇妙で歪んだおかしな考えが頭の中に浮かんだ。
なぜ流しているのか分からない涙は未だ僕の頬を伝い、カタカタと体は震え続ける。
「……あなたの……名前は?」
流れる涙も震える体も無視してそう問い掛けると……男が小さく口を開く。
「……ルークだ。ルーク・グレノア」
そう言って男は悲しそうに笑った。
この日からこの男が……僕の絶対的な《神》になった。