ぼくと世界とキミ
俺の姿に気付いた青年は、静かにゆっくりと俺に向かって歩いて来る。
そして青年は俺の目の前に立つと、小さく口を開いた。
「……お前は、伝説を知っているか?」
「……え?」
急な問いかけに戸惑った様に表情を強張らせると、それを見て青年は不敵な笑みを浮かべる。
「世界の終わる時、王家に翡翠の瞳の子が生まれる。それは女神に祝福された神の子。他王家の証を持ちし者を集め、神の力を解放し、世界を救う勇者となる」
青年はそう言って不敵な笑みを浮かべたまま、小さく首を傾げて見せた。
その彼の語る伝説に、唇を噛み締めたまま視線を逸らす。
「……誰でも知ってる……くだらない伝説だ」
俯いたまま素っ気なく答えて返すと、青年は不敵な笑みを消し少し真剣な顔をした。
「この世界に、本当に神なんているのだろうか?」
そう言って青年はそっと空を仰ぐ。
……こいつは何が言いたいだろうか。
男の真意が分からないまま、表情を強張らせると彼の言葉を待つ。
「もしこの世界に神がいるのだとしたら……なぜ、この村を救ってはくれないのだろうな。教えてくれないか……」
急に刺す様に鋭い視線を感じ、俯く顔を上げた。
「……勇者ロイ?」
男のその言葉に、グッと息を呑んだ。
頭の中でコイツは危険だと警戒音が鳴り響き、いつの間にか握り締めていた拳が汗で濡れているのが分かる。