ぼくと世界とキミ
第二十九話 愛しい笑顔
「ロイ様……北西のグレノア軍がこちらに向かって動き出した様です」
俺の前に跪き深々と頭を下げた兵士の報告に、コクリと小さく頷いた。
「ここまで来るのに……あと二日位か?」
その問いに兵士が頷いて返す。
「分かった。後は待機していてくれ」
その俺の言葉に兵士は短く返事をすると、自分の持ち場へと足早に戻って行った。
そっと後ろを振り返れば……そこは切り立った崖の上。
そこに立つ俺の目の前には、果てしなく草原が広がっている。
緑の草地を静かに風が撫ぜ、それはサワサワと囁いていた。
しかしその草原の所々には薄暗い闇を纏った亀裂が入り、大地を大きく引き裂いている。
それは時折起こる地震の傷跡。
そっと後ろを振り返ると、茶色の太い幹が見えた。
崖の上に聳え立つ、空に届く程の大きな樹木。
「……世界樹」
そう小さく呟き、目の前の大きな樹を見上げた。
深い緑の葉が風で揺れる音が聞こえ、それは何故か俺には悲しく聞こえる気がする。
世界樹の周りには、元は町だったらしい跡が見えた。
崩れた外壁にボロボロの建物。
そんな景観の丁度中央に一際大きな建物が残って入るのが見える。
それは何千年もの昔に立てられ、今でも原型を留めたままの忘れられた城……イシュフェリア城。
かつて世界が一つだった頃に、様々な種が共に生きていた世界唯一の王国。
その城を今は拠点として使っている。
「……二日は自由時間か」
まだ何の影すらも見えない草原の果てを見つめたまま小さく呟くと、そのままイシュフェリア城へと向かって行った。