ぼくと世界とキミ
目の前に一人の男が立っている。
細身の体に銀色の髪、それからこの世のモノとは思えない程に美しい顔立ちに、耳に光る沢山のピアス。
そして妖しい輝きを放つ……赤い瞳。
その男の強く握られた手には、僕の放った矢が握られていた。
男の気配に気付いたウサギが、ピョンピョンと慌てて草木の陰へと逃げて行く。
それを男は横目で見届けると、鋭い視線を僕の方へと向けた。
「おい!出て来いよ!!」
男が真っ直ぐにこちらを見つめたまま声を上げる。
それに応じる様に恐る恐る立ち上がると、男の赤い瞳が僕を捉えた。
「何だ……ガキかよ?」
そう言って男は少し驚いた様に目を丸くした。
「お前さぁ……あのウサギを殺して、どうするつもりなわけ?」
男はそう言ってジロジロと観察するように、上から下まで僕を眺める。
「その服装、いいとこのお坊ちゃまだろ?食うに困ってる様には見えないなぁ」
男はハァと深い溜息を吐くと、そのままゆっくりと僕に近付いてきた。
次第に詰まる距離に怯える様にフラフラと後ずさると、カタカタと震える唇をそっと開く。
「か、母様が……誕生日に僕の獲ったウサギの毛皮が欲しいって言ったんだ。だから僕は……」
その震える僕の答えに、男は呆れた様にまた溜息を吐くと、少し鋭い視線を僕に向けた。
その瞳に臆する様に更に一歩後ずさると、小さく身を竦める。
彼の赤い瞳に睨まれていると……なんだかとても悪い事をした様な気になってくる。