ぼくと世界とキミ

「だから俺は人間が嫌いなんだよ」

男はケッと吐き捨てると、次の瞬間……獣の姿になった。

大きな狼の様な体に、美しい銀色の毛並み。

鋭く不思議な赤い瞳だけがさっきと変わらずに僕を見つめている。

「お、お兄さん……魔族なの!?」

ポカンと口を開いたままそう問いかけると、男の赤い瞳が僕を冷たく睨んだ。

魔族とは人間の言葉を操る魔物、または人の姿をとれる魔物の事を呼ぶ。

魔物の中でも最上級に位置する種族だ。

魔物の数が減って来てしまったこの世界では、殆ど姿を見せなくなった魔族。

それが……こんなに近くにいるなんて。

「魔族だったらどうする?俺を殺すか?」

獣姿の男はそう言って意地悪そうに大きな口を開いた。

それはまるで笑っている様に見え、そこから見える鋭い牙にほんの少し身構える。

「そんな事……しないよ」

何とか声を振り絞り短く答えると、男はまた呆れた様に大きな溜息を吐いた。
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