ぼくと世界とキミ

漆黒の空に美しい月と星が光っている。

その光に照らされながら、だだっ広い何も無い草原を真っ直ぐに歩いて行く。

あの青年と出会った村を出てから、一時間くらいは歩いただろうか。

「……一つ……聞いてもいいか?」

淡い光を放つ月を見上げながら、青年が小さく口を開いた。

「……何?」

そう言って首を傾げて見せると、青年は何か考える様に俯いて微かに息を吐く。

「勇者はなぜ……この世界にいるのだろうな」

「なぜって……世界を救うため、だろ?」

その俺のもっともな返答に、青年はコクリと頷いた。

「神が本当に存在するのだとしたら……なぜ、勇者など作る必要があったのか。絶対的な力を持っているのに、自らは世界を救わない。……なぜだろうな」

青年のその呟きと共に、月明かりに照らされた青年の蒼い瞳が、真っ直ぐに俺に向けられる。

その瞳に見つめられていると、なぜか意味も分からず胸がざわざわとざわめいた。

「……そんなの……俺に分かるわけないだろ」

そう素っ気なく答えると、真っ直ぐに俺を見つめる青年の瞳から目を逸らして俯く。

青年のまるで俺を試す様な瞳は、なぜだか俺を不安にさせる。

青年から顔を背けたまま俯いていると、青年はそんな俺の姿を何も言わないまま暫く見つめていた。

「……そうだな。悪かった。先を急ごう」

青年はそれだけ言うと、何も無かった様にまた黙々と草原を歩き出す。

その後ろを黙ってついて行きながら……頭の中には青年の言葉が繰り返し廻り続けていた。

……なぜ、勇者が必要なのか。

そんな今まで疑問にも思わなかった事を考えてみる。

……勇者は世界を救う。

……救う?

……救うって……一体何から?

様々な考えが浮かんでは消えていくが、俺を納得させてくれる様な答えは出そうにも無い。

……今考えていても、きっと答えは出ない。


考える事を諦め、漆黒の空に浮かぶ美しい月を見上げながら小さく溜息を吐くと、ほんの微かに右肩の《痣》が痛んだ様な気がした。
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