ぼくと世界とキミ
「フリーディアは栄えてるんだな」
他国に入るのは初めてだった。
それどころかセレリアの城下町以外に街に出た事などない。
文化の違いと言うか、目に映る全ての物が珍しい物ばかりで、様々な物が溢れる城下町にテンションが上がる。
市場に並んだ色取り取りの野菜。
煌びやかな服に美しい装飾品。
どこからか美味しそうな匂いがする。
……この匂いは!?
俺の脳の記憶を呼び覚ますその香りに、勢いよく振り返った。
するとそこには……赤いトウガラシマークののぼりを掲げた露店がある。
銀色の鍋一杯にグツグツと煮えたぎる赤いスープを、店主らしきおばさんがグルグルとかき回していた。
「フェルムスープだ!俺、大好物なんだよ!!うわ~食いたいな~」
じゅるっと涎を滴らせそれを腕で拭いながら目の前の赤いスープを見つめる。
フェルムスープとはスパイシーな赤いスープで、肉と野菜をじっくり煮込んだ家庭料理だ。
……まぁ、家庭で食べた事はないけど。
俺はいつも《国王になる為に必要なお勉強》とやらをサボっては、城を抜け出しこっそりとスープを食べに行くのが楽しみだった。
……フリーディアにもあるんだな。
俺の知っているフェルムスープとは少し中に入っている具が違うようだ。
「なあ!めちゃくちゃ腹も減ってる事だし食ってこうぜ!!……って、おい!!」
テンション最高のまま満面の笑みで後ろを振り向くと……そこには誰も居ない。
フェルムスープに興奮する俺を無視して、とっくに青年は遥か遠くを歩いていた。
「……ちょ、ちょっと待てって!!」
スープはかなり……いや、死ぬほど名残惜しかったが、涎を拭うと慌てて青年の後を追って行った。