ぼくと世界とキミ

「すまない……待たせたな」

聞き覚えのあるその声と同時にゆっくりと後ろを振り向くと、そこには一人の青年が立っていた。

少し色素の薄い茶色の髪に人形の様に整った顔。

白い肌に深い海の様な蒼い瞳。

それはたった今見ていた肖像画と……全く同じ姿をしていた。

風呂にでも入って来たのか、着替えを終えた小奇麗な彼は、さっきまでとは見違えるくらいに高貴なオーラを纏っている。

「改めて自己紹介をしよう。俺の名前は《ジル・フリーディア》。この国の……第一皇子だ」

そう言って青年はお得意の不敵な笑みを浮かべた。

その彼の言葉に、ホッと胸を撫で下ろす。

「おかしいと思った。俺の事を知っている人間は限られる。仮に知られていたとしても……《痣》の位置まで分かる筈がないんだ。《王家》の人間以外には……な?」

そう言ってニヤリと笑って見せると、青年は俺と同じ様に笑みを浮かべ頷いた。

コイツがフリーディア国第一皇子。

……噂には聞いた事がある。

彼は昔からとても優秀な男だったらしい。

どこぞの剣技大会で優勝しただの、誰も解けなかった魔術式を解いたとかなんとかで……その噂はセレリアにもしっかりと届いていた。

その度に俺は引き合いに出され、《もっと勉強しろ》だの《剣の練習をさぼるな》だのと親父に説教を喰らったものだ。

そう……会った事もない《フリーディアの皇子様》だったが……俺はコイツが嫌いだった。
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