but you
沈黙が訪れて、私は鞄を持ってさっさと帰ろうと思った。暑かったし、何よりこの沈黙に耐えられないと思った。

席が陽平の隣だった机にかかっていた鞄を手に持って、じゃあね、と言おうとしたらその腕を掴まれて

『亜子』

陽平は私の名前を呼んだ。

あの時の声と、手の温度と、眼は今でもはっきりと覚えている。――それと、唇の感触も。

触れるだけのキスをして、陽平は教室を後にした。さよならも言わなかった。
教室でしたからなのか、この時だけははっきりと覚えているから、これが初めてのキスなんじゃないかと私は思っている。

目を瞑るのも忘れてた、私のファーストキス。

夏休みが明けた頃から『付き合ってるの?』と聞かれて『うん』と答えるようになったような気がするし。
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