口説いてんの?

部屋に入るまでに母親に気付かれなかった

事に胸を撫で下ろした。

こんな顔は見られたくない。

凪斗を部屋に残し、キッチンへ向った。

友達連れて来たから、と母親に伝え

缶ビールとペットボトルとグラスを持って

階段を上がっていると

「夕ご飯はー?」

「いらない」

ご飯なんか喉を通るはずもない。

心なしか母親への返事も震えている。

部屋に戻ると、凪斗の膝で猫が

気持ち良さそうにしていた。

「俺の事覚えてましたよ?」

「そうみたいだね。好きな物飲んで」

薫子がテーブルに飲み物を置くと

彼は迷わずペットボトルに手を伸ばした。

「ビールは?」

「大事な話なんでしょ?」

彼は、グラスにジュースを注ぎ

薫子の前に置いた。


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