口説いてんの?
ありがと、と言って差し出されたグラスを
持つと、零れそうなほど手が震えて
両手で持ち替えた。
凪斗は、その様子を目で追っている。
「正直に言います。緊張してます」
彼はキョトンとして首を捻り、微かに笑った。
「薫さんじゃあないみたいですね?」
「今日は本当の私を見せてあげる」
「本当の薫さん?」
薫子は、あらぬ方向に目を向けて
ようやく凪斗と視線を合わすと
彼も真顔で見返してきた。
「実は・・・あの・・・えっと・・・ハア」
薫子は、酔ったみたいに呂律が回らない。
大きく深呼吸をして床に視線を落とし
改めて口を開いた。
「実は・・・・・ごめん無理!呆れるでしょ?
自分がこんなに小心者だったとは・・・」
「言いたくないなら、無理しなくても?」
彼は、柔らかく言い聞かすように答えた。