口説いてんの?

薫子は首を横に振り、声を張った。

「ううん!そうじゃなくて・・・

 言いたいのっ!訊いて欲しいのっ!

 凪斗にちゃんと伝えたいのっ!」

「あぁ、はい」

とは言ったけど、やはり決心が付かない。

薫子は顔が見えないベッドへ移動して

膝の上で指を組んだ。

「たぶんビックリすると思うから

 心構えだけはしといてね?」

「はい」

彼の声が遠くで聞こえる。

薫子は咳払いを一つした。

「私は凪斗が好きです。凄く好きです。

 あの時凪斗を拒んでしまったのは

 心の準備が出来てなかったからで・・・

 実は・・・私・・・

 男の人を知らないんです。まだ、処・・・」

その時、グラスが倒れる音と

彼の小さな悲鳴が聞こえた。


< 155 / 225 >

この作品をシェア

pagetop