口説いてんの?
薫子は、車を運転する時だけ眼鏡を掛ける。
ダッシュボードに入れてあるので
彼の前に身体を近付けなくてはいけない
ので、どうしようかと考えていた。
「薫さんの家って?」
「宇佐見君所から少し先。
履歴書見たからなんとなく分かる」
「そうですか?」
それでもエンジンを掛けないので
凪斗が薫子の顔をじっと見ていた。
視線を感じて横を向くと
素早く逸らされてしまった。
「ごめん、悪いんだけど
其処に眼鏡が入ってるんだよねぇ
取って貰っても良いかなぁ?」
薫子はダッシュボードを指差した。
彼は返事をしてダッシュボードを開け
眼鏡だけ渡してくれた。
手を出すと指先が触れてしまった。
「あっ、ごめん。ありがとう」
凪斗は聞こえたはずなのに
返事もせず前を向いてしまった。