口説いてんの?

「何ですか?」

恵理子さんは、鞄からハンカチを取り出し

口元にあてて身を乗り出したので

薫子も同じように身を乗り出した。

「誰にも言わないでくれる?」

「はい」

それでも、恵理子さんは言いよどんでいた。

薫子は、重大な相談をされると思い

目を見張ると、恵理子さんは

真っ直ぐに見つめ返してきた。

「宇佐見君とキスしたじゃない。

 私、忘れられなくて・・・

 好きみたいなのよぉ・・・」

開いた口が塞がらない、とはこのような

状況の時に使う言葉だと改めて思った。

正直、そんな事があったのも忘れてたし

凪斗と留美は付き合ってるし

私は何を言えばいいんだろう。

思わず周りを見渡して

知り合いでも居ないかと探してしまった。

その視線を恵理子さんに戻すと

赤くなっていたので、余計に驚いた。


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