銀白虎








自嘲気味に小さく笑いがこぼれた。


それから……ふぅ、とひとつため息を吐いて。



“幸せ”を考えることはやめよう。

それがたとえ他人のことでも。


…………とても、虚しい気持ちになるから。






「…もう寝るね。台所勝手に使ってごめん」


「いってんだろ?許可なんていらないって」



呆れたような顔をする蓮見くんに、胸が切なくなる。



当たり前のようにここをあたしの居場所にしてくれることに嬉しさを感じるのに、

でもその反面、いつかは彼の側を離れなきゃいけないのだと、考えてしまうから。




「……じゃあ」



だから、早くこの場から逃げたいと思った。ここにいると、苦しいから。



なのに。




蓮見くんの横を急いで通りすぎようとしたら、腕を捕まれて。


びっくりして、あたしは顔をあげる。




そしたら、感情の読み取れない顔をした蓮見くんが、





「…………今日、美味かった」



ぼそり、呟いて。






「そんだけ。おやすみ」





パッと解放された腕は、力なくぶらんと垂れ下がって。




おやすみ、聴こえたかどうかもわからないような声で言って。





やっぱり、逃げるように。自分の部屋まで早足で歩いた。







捕まれた腕だけが、何故か寝付くまで熱かった。








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