銀白虎




「っ!」

頰に当たる、その柔らかい温度は、急速に私の身体の熱を上げる。


一度、離し、そしてもう一度ゆっくりと。

まるで、硝子細工に触れるような、優しさだった。





「行くぞ」


その声を合図に、やっと現実に引き戻された。

それに、少し安堵して。



「…うん」


歩いていく彼は、びっくりするくらい、普通だ。



だけど……。

痕を辿るように、左頬に手を添えた。

ーーーあたしの頰にはまだ、彼の唇の熱が残っている。



でもとりあえず、彼を追いかけなければ、と踏み出した。

しかし、あっとなり振り返る。美和先輩が教室に倒れたままだ。


「あの、蓮見くん!……美和先輩は…」


「ああ、それは気にしなくていい」



気にしなくていいと言われても…。

恐る恐る声をかけてみたものの、よくわからない。

けれどいまは、彼のいうことに従うのが、正解な気がする。



< 540 / 589 >

この作品をシェア

pagetop