銀白虎
「あ、ごめん。俺だ」
その言葉に、久しぶりに息が吸えた感覚がした。
神崎くんはこちらに背を向けながら、ボソボソと話している。その姿を、ただぼーっと聞いていた。
電話が終わると、神崎くんはこちらを振り向いた。
ばかだなぁ。この瞬間に逃げてしまえばよかったじゃん。そんなことを、今更思った。
だけど、神崎くんの前では、
どうして……
そんなことをしてはいけないような、気がするのだろう。
「休憩終わってんだから、早く戻って来いってさ。怒られちった。そりゃ、さすがにバレるよなぁ」
さっきの緊迫感が嘘のような、彼らしい軽い笑顔。
「じゃあ、また明日な。結城」
彼はどうして、変わらずそんな顔をわたしに向けられるのだろう。
今の私には、とてもじゃないが直視できない。