【極短】誰よりも近くに
1..気付けよ
「ごめん! ちょっと遅れちゃった!!」
駆け寄ってくる美咲に、俺は小さなため息をつきながら視線を伏せた。
18時。
美咲の指定したこの店は、「居酒屋」っていう言葉よりは「ダイニングバー」とでも呼んだ方が正しいように見える。
しゃれた外観に、間接照明。
薄暗いオレンジ色に照らされた店内は、平日にも関わらず少し賑わいを見せていた。
「ここのお店ね、先月オープンしたばっかりなんだよ。
先週職場の同期と一緒に来たんだけど、感じいいから気に入っちゃって」
店員に案内された席に座りながら美咲が笑いかける。
ショートの髪に緩いパーマをかけた美咲の髪色はキャラメル色。
オフホワイトの腿丈のワンピースにジーンズ。
……多分、俺の為のオシャレではなくて、ただの仕事帰り。
別にいいけど。
いつもそうだし、今更気にもしねぇけど。……少し腹が立つだけで。
「何食べる?」
メニューを差し出す美咲に、俺はまた一つため息をつきながら口を開く。
「美咲の好きなもんでいいよ。
お薦めなの適当に頼んで」
さっきから尽きないため息は……多分、この後出されるであろう話題のせい。
美咲が片思いしてる、「トシくん」とかいう野郎のせい。
……マジで気が重いんですけど。
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