【極短】誰よりも近くに
「あたし、もう仕事に生きるからいいっ!!」
俺の答えを待たずしてそう言い切った美咲の前に、頼んだ料理が運ばれてくる。
ってか、待て。
俺の答えをもう少し待っとけよ!
「はい、トオル」
運ばれてきた料理を小皿に取り分けて、美咲が俺に差し出す。
……笑顔のオプション付きで。
「……さんきゅ」
そんな事さらたら、一瞬苛立った俺の気持ちなんてキレイに元の形に収まって行く。
……我ながら単純明快な頭脳。
※※※
結局、デザートを頼むかどうか悩んだ挙句、止めた美咲。
「太るからいい」なんて言ってたけど、仕事に生きるんならどうでもいいんじゃねぇ?
……とは突っ込まないけど。
そんな事言ってたって、美咲は本気でそんな事思ってる訳じゃない事くらい分かってるから。
今時ありえねぇような漫画みたいな恋愛に、本当は憧れてるのを知ってるから。
……漫画のヒーローみたいになるのはちょっと御免だけど。
だけど――――……
「あーあ……いつかあたしにも運命の人とかが現れるのかなぁ。
……早く来ないかな」
駐車場で月を眺めながらそんな事をぽつりと呟く美咲。
その横顔は、しゅんと落ち込んで見えて……
俺は、手をぐっと握り締める。
この関係は大事だけど
美咲と気まずくなるのは嫌だけど……
だけど……
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