みちゆき
「綺麗だ、と褒めているのだけれど」
「綺麗でも何の得にもなりませんよ」
「美貌は一つの武器であり……弱点でもあるのよ。あなたのは武器で……きっと私のは弱点」

 白い陶磁のような顔を悲しげに翳らせて少女は呟く。
「縁談がきたわ」
「……」
「引き合わせられたの。今日。有名な資産家で、御年不惑。倍以上よ」
「……ゆかれるのでしょう?」
「あなただったらゆきたいと思う?私の顔を見て、いやらしげに笑った顔はひしゃげた蛙のようだったわ」
 少年は、低い声色で訊く。
「……どうなさる心算でここに来たんですか」
 分かっていても訊かずにはおれない。
「手に手を取って逃げましょう、といってもあなたは困った顔をするだけでしょう?愚痴だけ言いたかったの。あなたの顔を見たかった」
 少年の頬に指を這わせて少女は告げる。


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