ダイアリー
親子
「みさ。用意は出来た?」
ノックと共に顔を出した男が机の前に座っている少女に問い掛けた。
「もちろんっ!パパ」
みさと呼ばれた少女は、笑顔で振り返った。
その笑顔はとても愛くるしい。
「じゃあ、行こうか」
男が少女を見る眼は、優しく、愛情に溢れている。
「うんっ!」
少女はさらに満面の笑顔で頷いた。
そして開いていたノートを閉じ、それをそのまま置き去りに、少女は部屋を後にしようとした。
男が少女に声をかける。
「みさ、あのノートはいいのか?」
「えっ?あぁ、いいの。あのノートは置いていく」
「もう必要ないの?」
「うん。もういらないものだから」
男はその返事に少し含みがあったように感じたが、それ以上、詮索はしなかった。それが何の変哲もないどこにでもあるようなノートに見えたからだ。
「そう。じゃあ、行こうか」
「うん」
先に玄関に向い歩き出した男を追って少女も歩き出した直後、ふと足を止め、机に置き去りのノートを振り返り、クスリと笑った。
それは、とても楽しげで、そしてその瞳は何かを期待する幼い子供のようであった。
【完】