ゆびきり
「山下くんっ」
名字を呼ばれて振り向くと、そこにいたのはさっき俺を"慶ちゃん"呼ばわりした女子、桶川葉子。
今度は何だよ。
「…何?」
おい俺、素出てんぞ。
俺は少し鬱陶しそうに返してしまった。
相手は曲がりなりにも女子なんだから、もっと優しくしねーと。
俺は気持ちを入れ替えて、
さっきのことを一生懸命弁明する桶川葉子に、とびきりの笑顔を向けた。
「気にしてないよ。それにしてもびっくりした。いきなり"慶ちゃん"だもん。でもこれも何かの縁だし、これからも仲良くしよう?」
俺がそう言うと桶川葉子は、さっきまでの申し訳なさそうな顔から、ようやく少しホッとした表情を見せた。
そしてまた、自分の席へと戻って行った。