ボクの経験値
2.
彼と初めて会話したときのことは克明に覚えている。
隣のクラスだったから、あんまり関わることがなく、ただ一方的にボクのほうが彼を知っている状態だった。
話したいとは思っていた。
でも、あのとき、あの一瞬だけ、彼と言葉を交わした時……
あぁ、彼は普通の子じゃないな、って思った。
その一瞬っていうのは、運動会のときだった。
100m走を、各クラス2人ずつで6人で並んで走ることになっていた。
その時、隣にいたのが彼だった。
「あ……」
隣に彼が来たとき、思わず声を漏らしてしまった。
それに反応した彼は、少し笑って見せた。
目が合ったのも、そのときが初めてだった。
そして、先生がスタートの合図をする直前、彼はボクのほうを向いてこう言った。
「風が味方してくれるって、だから俺が勝つよ」
その直後にスタートしたんだけど、ボクは一瞬だけ遅れてしまった。
彼は風のようにどんどん前へと走っていく。
遠くなる彼を追いかけながら、ボクは背中に違和感を感じていた。
不思議な感覚だった。
不思議な言葉を、その時ボクは聴いたから。
”早くなれ”
それが彼の言っていた《風》だったのかもしれない。
そのことは今でも、彼は教えてくれないんだ。
隣のクラスだったから、あんまり関わることがなく、ただ一方的にボクのほうが彼を知っている状態だった。
話したいとは思っていた。
でも、あのとき、あの一瞬だけ、彼と言葉を交わした時……
あぁ、彼は普通の子じゃないな、って思った。
その一瞬っていうのは、運動会のときだった。
100m走を、各クラス2人ずつで6人で並んで走ることになっていた。
その時、隣にいたのが彼だった。
「あ……」
隣に彼が来たとき、思わず声を漏らしてしまった。
それに反応した彼は、少し笑って見せた。
目が合ったのも、そのときが初めてだった。
そして、先生がスタートの合図をする直前、彼はボクのほうを向いてこう言った。
「風が味方してくれるって、だから俺が勝つよ」
その直後にスタートしたんだけど、ボクは一瞬だけ遅れてしまった。
彼は風のようにどんどん前へと走っていく。
遠くなる彼を追いかけながら、ボクは背中に違和感を感じていた。
不思議な感覚だった。
不思議な言葉を、その時ボクは聴いたから。
”早くなれ”
それが彼の言っていた《風》だったのかもしれない。
そのことは今でも、彼は教えてくれないんだ。