成立事項!

離れていく小さな手に、吸い付こうとするかのように、細く短い髪はふわりと広がっていく。


「‥‥っ!!?」


それは最早、「おしゃれなんです!」と胸を張って言える範囲の髪型ではなかった。

瞳はパッと目を逸らしながら、あの、だとか、その、だとか言って、必死に言葉を探していて。

栖栗は無言で再び髪を押さえると、苛立ちを募らせた。


こんなことなら、見せるんじゃなかったと思いながら──


「やっぱり、今朝は一人で登校して正解だったわ」


と、呟いた。

というのも、栖栗が朝起きたときの髪は湿気やら寝癖やらで、頭の大きさがいつもの倍になってしまっていたのだ。
愕然としながらも、いつものように迎えに来た英を、今日は一日放し飼いにしてやると言って追い返し、帽子を深く被りながら、遅刻ぎりぎりに登校してきたのだった。


栖栗は深い溜め息を吐く。

朝から、否、先週から降り続いている雨は、気分すら滅入らせる。

だからかもしれないが、ここ最近、教室の中は静かだった。






──筈、だった



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