極東4th
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 額が、ズキズキと痛んだ。

 早紀は、放り出された廊下で、しばし呆然と扉を眺めた。

 真理の部屋の扉だ。

 思いもよらない出来事が起きたのだ。

 罰せられると思っていた。

 もっと、冷酷に。

 それこそ、タミに嬲らせるくらいのことは、するかもしれないと考えたのだ。

 しかし。

 真理は、タミを追い出したのである。

 早紀は戸惑った。

 目の前の男が、いま何を考えているのか分からなかった。

 だから、言ってやったのだ。

『打ちのめすと…いいのに』、と。

 瞬間。

 真理に火が見えた。

 あの、不機嫌になればなるほど冷たくなる男の瞳に、早紀は炎を見たのだ。

 気づいたら、髪を掴まれて上を向かされていた。

 信じられない。

 あの真理が。

 早紀の、しけった挑発に乗ったのである。

 そして──噛まれた。

 額の印を。

 その熱い衝動が、額から消えないうちに、早紀は部屋から放り出されたのだ。

 額に心臓があるかのように、激しい鼓動を感じた。

 一瞬。

 あの一瞬。

 真理の、むきだしの感情が見えた気がして。

 その熱さに、早紀は炙られた。

 よろり。

 足に力が入らなくなって。

 気づいたら──へたりこんでいた。

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