極東4th
「はっはっは…傑作だ」
夢の中。
早紀を見るなり、鎧の男は笑い出した。
「噛まれたか…しかも、当主に」
彼が言うのは、額の印のことだ。
それは、すぐに分かった。
夢の中だというのに、そこでもなお額は、ずきずきと痛みを残していたのだ。
印についた傷だからだろうか。
それとも──その痛みからは、たとえ夢の中でさえ逃げられないと、自分は思い込んでいたのか。
「逃亡の折檻にしちゃあ、可愛いもんだぜ」
ニヤニヤとした気配で、男は言い放つ。
まったくその通りだ。
だからこそ、彼の行動が鮮やかに記憶に焼きついていた。
「しかし…」
微かに、鎧の男は考えるような仕草をする。
「半分の権利を持つ当主が、そこに傷を与えたのなら」
あっと。
早紀の、背中に冷たいものが走った。
鎧が、目の前に立ったのだ。
壁のように立ちふさがった、と言った方が正しいか。
この感触は、知っていると言うべきか。
初めて、この男と会った時のことを思い出した。
害意など、感じない。
しかし、違うものはある。
「当然、オレにも半分の権利があるわけだ」
兜が、ずいっと近づいてきた。
吸い込まれるような、闇の色の兜。
彼もまた、早紀を噛もうというのか。
だが、中に肉の存在があるようには思えない。
噛むには──歯がいるというのに。
早紀の心配をよそに。
ガリッ。
歯ではない黒い何かが。
早紀の額をリンゴにしてしまった。
夢の中。
早紀を見るなり、鎧の男は笑い出した。
「噛まれたか…しかも、当主に」
彼が言うのは、額の印のことだ。
それは、すぐに分かった。
夢の中だというのに、そこでもなお額は、ずきずきと痛みを残していたのだ。
印についた傷だからだろうか。
それとも──その痛みからは、たとえ夢の中でさえ逃げられないと、自分は思い込んでいたのか。
「逃亡の折檻にしちゃあ、可愛いもんだぜ」
ニヤニヤとした気配で、男は言い放つ。
まったくその通りだ。
だからこそ、彼の行動が鮮やかに記憶に焼きついていた。
「しかし…」
微かに、鎧の男は考えるような仕草をする。
「半分の権利を持つ当主が、そこに傷を与えたのなら」
あっと。
早紀の、背中に冷たいものが走った。
鎧が、目の前に立ったのだ。
壁のように立ちふさがった、と言った方が正しいか。
この感触は、知っていると言うべきか。
初めて、この男と会った時のことを思い出した。
害意など、感じない。
しかし、違うものはある。
「当然、オレにも半分の権利があるわけだ」
兜が、ずいっと近づいてきた。
吸い込まれるような、闇の色の兜。
彼もまた、早紀を噛もうというのか。
だが、中に肉の存在があるようには思えない。
噛むには──歯がいるというのに。
早紀の心配をよそに。
ガリッ。
歯ではない黒い何かが。
早紀の額をリンゴにしてしまった。