極東4th
 二人に噛まれた額。

 その意味を、早紀が考えようとした時。

 カタッ。

 小さな音が、生まれた。

 あっと。

 早紀は、顔を上げる。

 まさか、と。

 まだ、夢の中。

 鎧の男を見たのだ。

「早いな…」

 彼の声は――歓喜の響き。

 声にかぶってゆくのは、鎧が震える歌。

 こんな日に。

 自分の弱さを見て、真理の馬鹿な行動を見た日に、蝕が来るなんて。

 や、やだ。

 早紀は、恐れた。

 いま、この気持ちなまま、真理とひとつになりたくなかったのだ。

 あの心地よい感覚に、溺れたくなかった。

 溺れてしまったら、早紀が真理に依存してしまう。

 そうしたら、自分はきっと彼からの好意を願ってしまうのだ。

 いま、消し去ろうとしているそれに、みっともなくしがみつく。

 それは…いや。

 懇願する目で、鎧の男を見てしまった。

 だが。

「ダメだ」

 喜びに、うち震える声。

 この幸せを、彼は絶対に手放さない。

「さあ…いけ」

 指が。

 彼の指が、早紀の額に伸びる。

 二人に傷つけられたそこを、容赦なくなぞった。

 目覚めは、痛みの残り香と共に。

 目の前には、真理の部屋。

 身体の中には、鎧の喜びと興奮が燃え盛る。

 あぁ。

 扉を開ける自分を、止められない。

 いやなのに。

 鎧になるのは、いやなのに。

 バァンッ!

 開け放った早紀。

 飛び起きる真理。

 身体の中の鎧が、こう言う。

 彼と――ひとつにならなければならない。
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