極東4th
 星が、落ちてゆく。

 早紀は、それをずっと見ていた。

 最初から、まるで儚いものであったかのように、次々と海へと落ちてゆくのだ。

 だが、そこは柔らかな海面ではなく──固い氷面。

 明らかに気配の違う、一人の闇の鎧が近付いてくるまで、それは続けられた。

 真理によって。

「カシュメル卿! 参られよ!」

 その呼びかけは、明らかなる認識の元に紡がれた言葉ではなかった。

 ぼんやりとした何かを追うような視線は、真理の鎧に定まっていなかったからだ。

 早紀のステルスは、いまだ魔族にも健在のようだ。

 限定解除の相手に対して、という意味で。

 真理は、ようやくにして星墜としをやめたようだった。

 それ以前に──もはや、落とせる星はほとんどなくなっていたのだが。

「極東の4th…カシュメル、参りました」

 真理は、鎧を震わせた。

 それでようやく、相手は彼を認識したのだ。

「間もなく大空蝕が終わる…卿が中央の染めを行われよ、という達しだ」

 もはや。

 もはや、魔族がこの海上の蝕を取ることは明白だった。

 その先触れとして、彼は遣わされたのである。

 限定解除組自ら、豪華な出迎えだった。

 しかし、それほどの相手でなければ、いまの真理を捕まえることなど出来ないのもまた事実だろう。

 真理が、笑う。

 幸福そうな笑顔が、鎧を通じて全身に広がるのだ。

「それは…『あの方』の思し召しですか?」

 早紀の意識の中に、暗く重く怖い存在がよぎる。

 二度目に鎧のなった日に、彼らを4thに任命した相手だった。

 しばし、相手は動きを止めた。

「…そうだ」

 肯定に、真理が一度目を閉じたような気がした。

 自分を整えるために、彼が早紀の内側でそうしたような。

「光栄ですね…喜んで参ります」

 一瞬、見知らぬ男が早紀の中を駆け抜ける。

 それに反応したのは、貴沙だった。

 あっと。

 彼女は、その残像を追う動きをしたのだ。

 おそらく──真理の父親だったのだろう。

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