極東4th
 ちょっ。

 女子高生に、外泊しろとのお達しなのだ。

 しかも、いきなり今夜。

 い、行くとこが、ありませんが。

 やや青くなりながら、情けないことを、早紀は思った。

 残念ながら、友達と呼べる人間は、一人もいなかったのだ。

 独特のクセのある生徒ばかりの中で、早紀は何というか――空気のような存在だった。

 小さいうちから、真理を相手にしてきたため、とにかく彼女は反射的に自己防衛に特化してしまったのだ。

 余計なことは言わない、でしゃばらない、声をかけられないように存在を薄くする。

 そんなことばかりが身についたせいで、おそらくいまだ早紀の名前さえ知らない生徒もいるだろう。

 小学校から、ほとんど生徒に変化はないというのに、だ。

 それで、早紀もよかった。

 いいこともないが、悪いこともない穏やかな生活があれば、それで満足だったのだ。

 そんな空気女子高生は、今夜屋敷に帰ってはいけないと言われてしまった。

 どう、しよう。

 反論したり、拒否したりという考えは、早紀にはない。

 それも、空気になるべく努力した結果だ。

 知り合いの家がないなら、ホテルとかになるのだろう。

 しかし、高校生が平日の夜に、制服でホテルに泊まって不審がられないだろうか。

 受験シーズンでもないというのに。

 うーん、うーん。

 悩んでいた早紀に、ふと光が差した。

 そうだ、と。

 浮かんだのは、修平の顔。

 彼に相談すれば、どこか宿泊先を紹介してくれるかもしれない。

 幸い、携帯電話がある。

 昼休みにでも、電話で相談してみよう、うん。

 なんとかなりそうな事実に、早紀はにこっとした。

 瞬間、はっと顔を引き締める。

 さすがに、いまの表情は真理に見られただろう。

 幸い。

 彼は、その後何も言わなかった。

 何故帰ってきてはいけないのか──理由を聞かないことさえデフォルトだった自分を、早紀は後で悔やむこととなる。
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