極東4th
それから。
それから、どうなったかなんて、早紀は覚えていなかった。
突然、目の前が暗くなって、考える力なんかこれっぽっちも残らなくて。
そして、とにかく暗い暗い闇の中を泳いでいたのだ。
そんな闇の中から、彼女の意識が引っ張りあげられたのは、硬い床を歩く足音が、鼓膜に響いたから。
しかし、目を開けてもそこは闇だった。
かび臭さと冷たさでいっぱいの空間。
早紀は、自分が冷たく固い床に、片方の耳を押し付けるように倒れていたことを知った。
なん、で?
慌てて起き上がろうとするが、身体に力が入らない。
というより、腕が妙に痛いし、自由に動かせない。
どうやら、縛られているようだ。
なんで、私…。
イモムシのようなだらしない状態で、早紀は近づいてくる足音へ、顎を動かすので精一杯だった。
覚醒そのものも、完全ではないせいで、頭もぼんやりする。
「さあ……約束だ。見せておくれ」
かすかな明かりが見えた。
そこに扉があるらしく、下の少しの隙間から、明かりが入ってきたのだ。
声を出して呼びかけたかったはずなのに、逆に早紀は息を飲んでこらえた。
聞こえてきた声が──修平のものだったのだ。
ぼんやりする頭でも分かった。
彼に助けを求めてはいけない、と。
何故か。
それは、いま自分がこんなところに転がっている「何故」と、つながっているからだ。
混乱する記憶の中で、最後に感じたあの違和感。
いままで優しいお兄さんみたいな存在だと思っていたのが、ああもあっけなく簡単に違う生き物になるなんて。
きぃ。
ドアの開く音。
どきっとしたが、開いたのは早紀のいるドアではなかった。
おそらく、向かいのドア。
下から差し込んでいた明かりが、遠ざかってゆくから。
何をしてるんだろう。
そして。
自分は、なぜこんな有様なのだろう。
ほんの微かな明かりの尻尾を眺めながら、早紀は不安と疑問と一緒に縛り付けられているのだった。
それから、どうなったかなんて、早紀は覚えていなかった。
突然、目の前が暗くなって、考える力なんかこれっぽっちも残らなくて。
そして、とにかく暗い暗い闇の中を泳いでいたのだ。
そんな闇の中から、彼女の意識が引っ張りあげられたのは、硬い床を歩く足音が、鼓膜に響いたから。
しかし、目を開けてもそこは闇だった。
かび臭さと冷たさでいっぱいの空間。
早紀は、自分が冷たく固い床に、片方の耳を押し付けるように倒れていたことを知った。
なん、で?
慌てて起き上がろうとするが、身体に力が入らない。
というより、腕が妙に痛いし、自由に動かせない。
どうやら、縛られているようだ。
なんで、私…。
イモムシのようなだらしない状態で、早紀は近づいてくる足音へ、顎を動かすので精一杯だった。
覚醒そのものも、完全ではないせいで、頭もぼんやりする。
「さあ……約束だ。見せておくれ」
かすかな明かりが見えた。
そこに扉があるらしく、下の少しの隙間から、明かりが入ってきたのだ。
声を出して呼びかけたかったはずなのに、逆に早紀は息を飲んでこらえた。
聞こえてきた声が──修平のものだったのだ。
ぼんやりする頭でも分かった。
彼に助けを求めてはいけない、と。
何故か。
それは、いま自分がこんなところに転がっている「何故」と、つながっているからだ。
混乱する記憶の中で、最後に感じたあの違和感。
いままで優しいお兄さんみたいな存在だと思っていたのが、ああもあっけなく簡単に違う生き物になるなんて。
きぃ。
ドアの開く音。
どきっとしたが、開いたのは早紀のいるドアではなかった。
おそらく、向かいのドア。
下から差し込んでいた明かりが、遠ざかってゆくから。
何をしてるんだろう。
そして。
自分は、なぜこんな有様なのだろう。
ほんの微かな明かりの尻尾を眺めながら、早紀は不安と疑問と一緒に縛り付けられているのだった。