つきのくに

皐月神社

「ただいま。」
我が家の無駄に広い玄関にいつもと違う靴があった。お母さんは今月ノ宮にいないし、こういう、いかにもブランドですみたいな靴は好きじゃない。
おばさんだ。お母さんの従姉妹。藤神八重子おばさん。
私はこの人があまり好きではない。私とお母さんの関係は少し複雑で、お母さんは私の本当のお母さんではない。私の本当のお母さんは、お母さんの姉に当たる人で、私とお母さんの関係は本来なら、叔母と姪の関係だ。
私の本当の母は私を産んですぐに出奔した。つまり、男と駆け落ちをしたのだ。そして、月ノ宮の近くの都会の新聞社の支店に勤めていた紫さん(つまりお母さん)が、私を引き取ってくれたのだ。


そのことを理由に、本来ならば、お母さんと私に相続権があるはずの皐月神社の相続権を主張している。
別に、皐月神社を継ぎたいとは思わないが、この人はうちにきては毒を散らして帰っていく。だから嫌い。


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