つきのくに
気がついたら、朝の六時だった。
お風呂に入らなきゃ。
我が家のお風呂は、水を温めなおす機能なんてついてないから、風呂がまにお湯が張ってないであろう今の時間にお風呂に入るには、シャワーのみか、お湯をわざわざ落とさなければいけない。朝や夜はうっすら肌寒い季節になってしまったので、朝にシャワーなんて浴びたら一発で風邪を引いてしまう。
私は、寝ぼけ眼でお風呂場に行って、お湯を張ろうとした。

「おはようございます。錫子さん。今からお風呂に入るんですか?」
椿さんに元気に声をかけられた。まだ朝六時なのに元気な人。椿さんは、うちで住み込みのお手伝いをしてくれている三十代の女の人だ。
「昨日、お風呂はいるの忘れちゃってたの。おばあちゃんには内緒にしてね。」
おばあちゃんは朝お風呂に入ったりするような生活リズムが狂うことが大嫌いだ。これも見つかったら何を言われるか。

「はいはい分かりましたよ。」
くすくす笑いながら、椿さんが言う。くすくすと笑うのは彼女の癖だ。全然馬鹿にされている感じではなくて、むしろ私は結構好きだ。


お風呂に十分にお湯がたまり、私は、脱衣所から椿さんを追い出して、お風呂の準備をした。髪留めとか洗顔クリームとか。
私は髪が長いから、髪留めをお風呂にもって入らないと湯船に髪の毛が浸かってしまう。
準備を終え、裸になり、お風呂場に入る。10月の朝の冷たい空気が、素肌を刺すよう。
震えつつ急いで湯船に浸かる。

癒しのひと時だ。


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