つきのくに

森の園

「ごめんね。待った?」
私は、神社の前で待っていてくれたしのぶちゃんに言う。
秋の朝の心地よい冷たさを感じる。空気がきれいだ。



「待ってないよ。あたしも今来たとこ。今日は忘れ物してない?」
しのぶちゃんは、けらけら笑って私の忘れ物癖を指摘する。
竹ノ本しのぶちゃん。
海ちゃんの従姉妹で、次期竹ノ本当主の女の子。
私や隼人の二つ年下で、今年の春に森園中学校に入学した。
「奥」に住んでいる子供で、森園中学校に通っているのは、私と隼人としのぶちゃんだけ。
年も近く、同性の私たちは仲がよく、毎日学校に一緒に行っている。

「してないよ。もう、しのぶちゃんまでそんなこと言うの?」
「あはは!!もうすでに椿さんに言われたんだ。」

しのぶちゃんは、快活で前向きで元気な子だ。一緒にいると明るくなれる。
落ち着いていて、優しくて一緒にいると穏やかな気持ちになる海ちゃんとは、いとこ同士なのにだいぶ違うと思う。
でも、しのぶちゃんも海ちゃんも優しいところは一緒だ。


「さっきね、そこで隼人にいにあったよ。今日日直なんだって。」
そして、しのぶちゃんは、隼人と普通に話せる。
昔から、元気のいいしのぶちゃんはいくら隼人がいやな顔したって気にせず話しかけ続けていた。
いつしか隼人もしのぶちゃんの問いかけに返事をするようになっていた。

「そっか。」




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