つきのくに
海ちゃんの好意に甘えて、家にあるものを取りに行く。

「あら、錫子さん。
どうしたんですか?」
洗濯物を軒下から取り込んでいる椿さんに会う。

「ちょっと忘れ物!!」







急いで階段を下りる。
さっきの蝉の死骸に蟻が集っていた。











「で、何でこんなもん取りに行ったんだよ。
これのために待たされたのか。」

「だから謝ってるじゃない。」


「これ錫の家で売ってる鈴だろ。
遊ぶのにいらねえだろ。」


「錫、これ何に使うの?」
「あのね、せっかく森に行くなら、つきのくにに行きたいなって思って。」


移動しながら、話す。
待ち合わせていた、うちの神社から森はすぐなのだ。


「つきのくにってあのつきのくに?
どうしてそれで、鈴なの?」

「あのね、こないだおばあちゃんが言ってたの。
月がきれいな夜に鈴を鳴らしながら歩いていくとつきのくにに行けるって。」

「お前のばばあの作り話じゃねえの?俺、そんなの聞いたことない。」
「僕も始めて聞いた。」

「本当だもん。」
隼人はともかく海ちゃんまで疑うなんて。

「それにまだ月なんて出てねえだろ。」
あ、そう言われればそうだ。
私って何でこう考えが及ばないんだろう。



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