つきのくに
シャンシャンシャンシャン。
森の君が悪いくらいの静寂に鈴が音を咲かせる。
まだ、人里と近いので、ロープが張ってあったりするけど、木が集まったとき独特のにおいが鼻に充満している。
「ああ、歩くだけって退屈だ。」
「隼人、まだ五分も歩いてないよ。」
隼人。根性なさ過ぎるよ。
「でも、ただ歩くだけじゃつまんないしね。」
何かつきのもり探しをしながら出来ることはないかと考える。
さっき、階段で見た蝉の死骸。
あの蝉はつきのくにを越えてあの世へ行ったのだろうか。
体は蟻に食べられてしまったけれど、心は綺麗なところへいけるのだろうか。
この森のどこかに、つきのくには隠れているのだろうか。
そして私たちをせせら笑って?
「じゃあ、かくれんぼでもする?」
「ここで?」
「そう。鬼が鈴を持って、隠れた人を探すの。でも一回隠れたらもう動いちゃだめなの。」
「いいなそれ。
どうせ、歩くだけじゃ退屈だしかくれんぼするか。」
珍しく隼人が私の提案に賛成した。
よっぽどただ歩くのが退屈だったらしい。
もともと隼人は血の気が多いから走り回るほうが楽しいのかな。
「じゃあ、かくれんぼしよう。じゃんけんで鬼を決めよう。」