つきのくに
「錫子さん、ご飯ですよ。」
茶の間のほうから椿さんの声がする。
ご飯が出来たんだ。行かなくちゃ。
「麻美、ごめん。椿さんが呼んでいるから切るね。
後でメールする。」
電話を切る。
どうして?頭の中はそれだけだ。
どうして隼人は私を斉藤君の手を払ってまで保健室に連れて行ったのだろう。
どうして?
何で、期待させるようなことするの?
また、だめなのに。
期待したらだめなのに。
私の頭はこんがらがって、せっかく食べたご飯もほとんど味が分からなかった。
「錫子さん。大丈夫でしたか?」
「うん。もう全然平気。
皆大げさに騒ぎすぎなのよ。」
「皆、錫子さんが大切なんですよ。」
くすくすと椿さんが笑う。
「さあ、食べ終わったら、大奥様のところへ行ってくださいね。」