つきのくに
「じゃあ、海ちゃんを忘れないように、他の誰が海ちゃんのことを忘れても、海ちゃんは私の心の中で生きているからって思っていたのは、実際には海ちゃんじゃなくて全部私の独りよがりだったって言うの?」

ただ、私は海ちゃんを殺した罪悪感から逃げたかっただけなのだろうか。
自分に都合のいい海ちゃんを作り上げて。



「そこまで言ってねえだろ。
ただ人間の記憶には限界があって、生きている人間が全てを完璧に覚えているのは無理なんだよ。
そうじゃないと、いつまでも悲しい事を忘れられないだろ。」

「・・・・じゃあ、隼人は海ちゃんが死んじゃって悲しかった事を忘れちゃったの?」

「そういうことを言っているんじゃない。海を忘れたわけじゃない。
俺の中にいる海だって、俺の記憶が少しずつ少しずつ脳が作り変えているんだ。」




生きている人間の生きるスピードに、時間が止まってしまっている死んだ人間は着いてくる事が出来ない。

私は、ずっと海ちゃんが私たちを置いていってしまったと思っていたけれど、海ちゃんを置いて言っているのは私たちなのかもしれない。



そう考えるとなんだかやりきれない。
置いていきたくなんてないのに。
一緒に生きたいのに。




私の中では、海ちゃんはまだ死んでなんかいない。
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