つきのくに
「本当に隼人君ってかっこいいよね。」
前の席に座った麻美が突然言う。村野麻美。私の小学生からの親友だ。かわいらしい顔にかわいらしい声、かわいらしい性格。すべてがかわいらしく生まれつき自分のことを麻美なんて名前で呼ぶけれど、同姓からねたまれたりしないいい子だ。
「目腐ってんじゃないの?隼人なんてぜんぜんかっこよくないよ。」
強烈に否定してしまった。だっていきなりだったからうまい切り替えしが出来なかったのだ。
「錫子ったら思ってもないことを。別に、麻美は一般論を言っただけよ。顔よし、性格もまあよし、頭よし、家はあの月宮家なんていったら誰だってかっこいいと思うでしょ。それに、麻美なんかがつりあうとは思ってないわ。」
「性格はまあ良くなんかないでしょ。あんなやつ最悪よ。」
「それは、錫子だからでしょう。」
「そうね。あいつは私のことが嫌いなのよ。」
「あら、麻美は違うと思うわ。隼人君の錫子へのあの態度は思春期特有の照れじゃないの?彼もともと女の子と気軽に話したりしないほうだし。」
「女子と気軽に話はしないって言うのは本当だけど、あいつは私に対して照れてなんていないわ。」
落ち着いて、落ち着いてなんでもないかのように言ったはずなのに、口から出た言葉は、自分でもびっくりするくらい強いものだった。ほら、いつも飄々とした麻美がびっくりしている。
「あいつは私のことが嫌いなのよ。」





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