つきのくに



私は、これまでにこれ以上に美しいものを見た事があるだろうか。

感動で、上手く思考がまとまらない。
涙まで、出てきてしまった。

「きれい。」

「そうだな。」


「私、これまでにこんなに美しい景色を見たことがない。」

「俺もだ。」


どちらからでもなく、手をつないだ。



隼人の暖かい手に触れた瞬間、分かってしまった。



海ちゃんはもう、死んでしまったんだ。


私がいくら忘れまいとがんばってみても、海ちゃんの時間は永遠に動く事はなくて、進んでいく私たちが、会えるのは、思い出の中の海ちゃんだけだということに。



限りなく、事実に近い思い出を保つ事は出来るけれど、もう、海ちゃんに会える事はないのだ。

心の中で、海ちゃんに会えるなんて所詮はきれいごとで、慰めにしかならない。


これから先の長い人生を共有していく事は不可能だ。



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