つきのくに
唐紅の空。
秋も深まってくれば、月ノ宮の夜は一気に長くなる。
4時半を回ったら空は唐紅に染まり、すぐに家路に着かなければ、暗くて帰れなくなることも多い。
私や隼人みたいな「奥」に住んでいる人は特に。
「奥」には、あまり電灯というものがない。私のおばあちゃん、つまり現皐月神社の巫女が言うには、月神様が夜道を照らしてくれているから電灯なんてものは「奥」には必要ないのだそうだ。
どこまで言っても月が支配する町。


だから、私も隼人も学校が終われば大体すぐに帰宅する。
隼人が私を避けているからあまり一緒になることはなかったが、今日はタイミングが悪かったらしい。(私にしてみれば家までの30分を一緒に過ごせるからラッキーなのだが。)

「・・・・・・隼人。」
「ッチ」
私が学校からの帰り道、「表」の子達と別れてすぐに隼人と会った。私が声をかけると隼人は舌打ちをして二、三メートル前を歩き出した。
いやなものを見たみたいな顔をして。



隼人のこの顔を見るたびに、声をかけなければ良かったと思う。胸が締め付けられたように痛くなる。
でも、会うたびに懲りずに馬鹿みたいに声をかけてしまう私は、本当に愚か者だと思う。
今だって、家までの少しの間にどうにか話が出来ないかと皺なんてないだろう脳みそが、フル回転している。
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