【短】聖なる夜を、君と。
クリスマスだったせいもあって、場内はカップルでいっぱいだった。
私と彼は、ポップコーンを片手に、1番後ろの席にちょこんと座った。
当たり前のように肩を寄せ合うカップルが、私には眩しすぎた。
映画が始まるまで、大人しくポップコーンを食べるよりほかはなかった。
「映画、始まるな。寒くない?」
私が返事をしないうちに、彼は自分の着ていた上着を私の膝にかけてくれた。
小さく『ありがとう』と言うと、彼はにっこりと笑った。
彼の上着からは、体育館で抱きしめてくれた時と同じ、香水の甘い匂いがした。
成り行きで決まった、恋愛映画。
どうせ最後はハッピーエンドだろうと、男女間に起こる様々な出来事を冷めた目で見ていた。
すると、空っぽだった左手が、何か温かいものに包まれた。
私の手をすっぽりと包んでしまったそれは、彼の手だった。
私の指の間に、彼が自分の指を絡める。
ちらりと彼の方を見ると、彼は表情ひとつ変えずに、スクリーンを見ていた。
でも、そんな表情とは裏腹に、繋いだ手から伝わる鼓動。
その鼓動のせいか、それとも、映画のラブシーンが甘すぎたせいか…。
私はそのまま眠ってしまった。