窓のない窓際
「あっ、瑞希~っ!
こっちこっち~い!」
「おうっ!
遅くなってわりぃな」
人通りの多い駅前で、待ち合わせていた女と合流。
「瑞希ぃ、会うのめちゃくちゃ久しぶりじゃあん!
ますますカッコ良くなっててまじビビるー!」
「あはは。
そりゃどーも」
ごく自然な流れで、女の腕が俺の腕に回される。
密着した女の体から放たれるキツい香水の匂いが、鋭く俺の鼻を突いた。
……いや大丈夫、別に慣れてるから。
「瑞希ぃ……今日はアタシとずっと一緒にいてくれる?」
俺を見上げるようにしながら、ちょこんと首を傾げて、上目遣いに尋ねてくる大きな瞳。
強いて言うならマスカラとかアイラインとか余計なもの塗らない方がいいと思うけど、うん、可愛い。
このブリブリな態度はイラつくけど、顔は可愛い。
「わりぃ。
今日は8時から塾あるから」
「え~っ!」
なんて嘘。
8時からは他の女との約束があんの。
あ、ついでに言うと塾も行ってない。
「う~……。
分かったあ……。
塾なら仕方ないもんね」
「わりぃな」
悲しそうにうなだれた女の頭を優しく撫でる。
「俺、亜矢子のそういう素直なトコ、好き」
ほら、簡単。
さっきまで薄白かった耳の色が、たった一言で一気に赤く染まった。