窓のない窓際
 
「……見えないの、か」


水上の後ろ姿が見えなくなるまで見送ってから、俺は駅を後にした。


帰る気にもなれなくて、宛てもなくただぼんやり歩いた。




『私、目見えないの』




さっきの水上のセリフが頭の中で無限に繰り返される。


まだ信じられない。


でも、そうだとしたら色々とつじつまが合う。


レストランで何も注文しなかったのは、メニューが見れなかったから……。


婆さんにぶつかったのは、周りが見えなかったから……。


そして……。


映画をつまんないって言ったのは、ストーリーうんぬんの前に……映画自体が観えなかったから……。


 
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