窓のない窓際
自分の席に向かう途中、俺は床に落ちていたものに気付いた。
薄いピンク色のリップクリーム。
「これ、誰の?」
俺はそれを拾い上げて、周囲に問いかけた。
「あ……」
すると、どこからか可愛らしい小さな声が聞こえた。
声の主を探す。
「あの、すみません……。
それって、リップクリーム……ですか……?」
あ、窓際の一番前の席か。
「うん、リップ。
これアンタの?」
「あっ、はい」
「落ちてたぜ。
気をつけろよ」
「ありがとうございます」
拾ったリップクリームを、持ち主の小さい手の上に落とす。
「本当に……ありがとうございました……」
そう言って、ゆっくり顔を上げた彼女の顔を見た瞬間、俺は目を見開いた。