窓のない窓際
水上は花束を俺に押し付けた。
「私、バラ嫌い」
そう言って、ちぎったバラの花びらを床に放った。
一枚の花びらは、ひらひらと床に落ちる。
白い無機質な床に浮かんだ、鮮やかなピンク色。
俺の腕に送り返された花束は、悲しそうに下を向いてしおれていた。
は……花もダメなのか……!
水上はほのかに残るバラの香りを消すかのように小さく咳払いをすると、またいつものように窓の方に顔を向けた。
「み、水上!
お前もしかして花嫌いだったか!?
花粉症とか!?」
「……お花は嫌いじゃないけど」
水上は窓の外を見たままそっけなく呟く。
「あ!
んじゃ好きな花は!?
好きな花教えてくれね!?」
水上はゆっくり俺の方を向く。
綺麗な顔は無表情。
俺を見上げる瞳は、俺を試すような、見定めるような瞳。
「……好きなお花?」
思わず息を呑む。
小さく動く綺麗な口元に吸い込まれそうになった。