窓のない窓際
 
小さい箱から流れ出すメロディー。


水上の体がピクンと反応したのを俺は見逃さなかった。


「俺、この曲初めて昨日聴いたから、名前も作者も知らねえんだけど……。
でもめちゃくちゃ綺麗な曲だと思って、思わず買っちゃったんだよな……」

「私、この曲知ってるよ!」


水上がいきなり俺の方を向いたから、俺は思わず目を見開いた。


「私、この曲好きなの!
すごく素敵だよね!」


水上の大きな目が急にキラキラと輝き始める。


聞いてもいないのに、水上は俺にこの曲名と作者名を教えてくれた。


曲名も作者名も聞いたことのない名前だったけど……。


「水上、詳しいな」

「うん!
だーい好きな音楽家なんだ!」


やっと聞けた水上の明るい話し声。


それが、嬉しかった。



 
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